黒人金融企業家が考える「黒人と仕事」――イギリス
黒人金融企業家が考える「黒人と仕事」――イギリス
ティジャーン・ティアム氏がプルーデンシャルplcの最高経営責任者の座につき、FTSE100社(ロンドン証券取引所における株価指数の上位100社)の中で初の黒人社長が誕生しました。
シティで働いていたとき、スタッフにバイク便の配達人とまちがえられた経験をもつ黒人企業家ピアーズ・リネイ氏は、少数派の民族グループ出身の若者が、より多く金融業界で働けるようにするために何ができるかを考えています。ティジャーン・ティアム氏の就任は、この国の黒人たちにとって、たしかに画期的な出来事です。しかし、この出来事が今ようやく起きたということこそ、イギリスの上場企業の重役会議のテーブルに黒人が並ぶのが当たり前になるのは、まだかなり先だということを示しています。
大学出身の黒人金融専門職
私は企業家になる前に、ロンドンのシティで10年以上勤務していました。その頃、私の他にも金融を専門職とする黒人はいましたが、彼らはティアム氏と同様、ほぼ例外なく高い教育を受けた西アフリカ人でした。
シティでは出会う黒人の大多数が、夜間の清掃員か補助的な仕事をしていました。80年代、90年代のシティには、バローボーイ(行商人)と呼ばれた(多くが労働者階級出身の)トレーダーが大勢いました。電子商取引や複雑な金融商品の登場によって、ロンドンの金融の中心地はふたたび以前のエリート主義に戻りつつあります。確実なコネと、お金のかかる教育と、専門資格やMBAが必要とされるようになり、シティへの門戸は狭められたのです。
私はシティで『自分自身』と出会ったことがありません。『自分自身』とは、金融の専門職で、カリブ系であるか、私のように公立学校の出身である者のことです。イギリスでは、金融を職業にしている黒人の数があまりにも少なく、大学に通う黒人の若者よりも、刑務所にいる黒人の若者の数のほうが多いのです。
会計事務所のプライスウォーターハウスクーパースは、黒人が能力を発揮できないことによる経済的損失は年間8億800万ポンドに上ると算出しています。
この意味で、私が政府後援のREACHと呼ばれるプログラムの一環として、黒人の全国的ロールモデル20名のうちの一人に選ばれたのは、光栄なことです。このプログラムは、さまざまな職業に就く好ましいロールモデルを提示し、黒人の青少年の向上心を高め、目標を達成させることを目指しています。
アメリカの教訓
シティは、ウォール街からいくつか教訓を得られると強く感じます。
これは、大西洋の反対側でバラク・オバマ大統領が選出されたことにより、新しい扉が開かれたからではありません。
○ティジャーン・ティアムの履歴
・2009年3月: プルーデンシャルplc最高経営責任者マーク・タッカーの後任に指名される
・2008年: イギリスで2番目に影響力のある黒人に選ばれる
・保険大手アビバ・ヨーロッパ最高経営責任者
・経営コンサルタント会社マッキンゼー&カンパニー共同経営者
・コートジボワール国立技術開発教育機関最高責任者
・コートジボワール政府計画開発大臣
・パリで工学を学び、INSEADでMBA取得
人種差別は、もちろん現在もアメリカの抱える問題であり続けています。ただ、個人的経験から言って、黒人としてときどきウォール街で仕事をする際に、かなりの解放感を味わうことができたのです。
シティで働いているときに、組織的な人種差別を経験したわけではありません。そうではなく、ウォール街の「巨大なるつぼ」のなかでは、アフリカ系アメリカ人と共に働いたり、出会ったりすることが、まったく珍しいことではなかったからです。
多くの人間が、ハーバード大学のMBAを取得していましたが、私がより感銘を受けたのは、そもそもごく一般的な環境で育ったアフリカ系アメリカ人が、ハーバード大に入学できるということでした。
シティに自転車で出勤してきて、会議に出席しようとしたら、スタッフにバイク便の配達人とまちがえられたことがあります。「ピアーズ氏」はいつ来るのかと尋ねられたこともしばしばです。
深夜に、シティから車で帰宅中に警官に呼び止められて、その高級車はお前のものかと尋問されたことなど、いやというほどあります。
このような出来事は、アメリカでは決して起こらず、相手からぎょっとした顔で見直されるという、おなじみの事態に身構える必要もありませんでした。
門戸を開放する
イギリスは現在も、金融業に依存している国であり、金融の中心地であるシティはその収入の大きな割合を占めている場所ですから、私立学校での教育と、そこで提供される職業指導を受ける機会に恵まれていない人々にとっても、居心地のよい場所となる必要があります。
変化が浸透するには1世代以上もの時間がかかるため、今こそ若者を鼓舞することが重要なのです。
シティや大企業は、ときどき門戸を開放して、少数派の民族グループに属する若者たちが、世の中のさまざまな職業を選択肢として考えられるように、励ますべきです。
古典的な面接や、能力や成績、業績などに基づいた従来型の選抜方法はやめるべきです。そういったものがなければ、私の場合も、何年もかかって培った洞察を、より早く身につけることができたでしょう。
私はシティにいたときに掴んだチャンスや、築き上げたネットワークに、大いに助けられています。ごく最近になってはじめて、自分の歩んだ道を追想するのをやめ、同じような道を選ぶ人間がいかに少ないかということについて考えるようになったのです。
FTSE100社の中で2人目の黒人最高経営責任者が誕生するのは、いつのことでしょうか。それがティアム氏退任のはるか後、まだ赤ん坊である私の娘が、30代後半になる頃の話でなければいいが、と願っています。
* ピアーズ・リネイ氏は、通信・ホステッドIT会社アウトソーサリーの共同最高経営責任者です。この記事で表明された意見は著者のものであり、とくに明記しない限り、BBCの見解ではありません
