仕事としてモデルをやっていくこと
イギリス政府は、悪質なモデル事務所の取り締まりに乗りだしていますが、モデルを職業にするということは、どれほど現実的な話で、実際のところ、生活していける見込みはどの程度あるのでしょうか。
現実的な仕事か?
若い女の子が、ケイト・モスや、ナオミ・キャンベルや、エリン・オコナーのように、キャットウォークを歩くスターになることを夢見たとします。
たまたま見つけたモデル事務所の広告には、クライアントのネットワークを持っていることが宣伝されていて、モデルになる夢を叶えてくれそうに思えます。ところが、モデル志望のその女の子が事務所を訪れ、所長に会ってみると、いい仕事をもらえるようになる前に、手数料として前金を払う必要があると言われます。
お金を払ってみても、何の仕事ももらえず、やがて何らかの理由で、モデルとしてやっていける見込みがないことを告げられるのです。
大手の事務所からのアドバイスは単純明快です。大手はそのようなやりかたはしません。通常の事務所は、報酬のごく一部を受け取るだけで、前金を要求することはありません。
昨年末、モデルやエキストラから前金をとるこのシステムを禁止する法案が下院に提出され、2010年10月に施行される見込みです。
そもそも、モデルの道を目指すことに、どれだけの現実性があるのでしょうか。
多くのモデルが加入している労働組合のエクイティ(衡平法)によれば、生活することはできるものの、楽な職業ではないということです。
「非常によく稼いでいる人を含め、誰にとっても厳しい業界だと言えますね」と、組合のマーティン・ブラウン氏は言います。
「一般の人が知っているのは、巨額の報酬を得ている一握りのモデルのことでしょう。たしかに、全般的に低報酬の業種ではありませんが」。
それでも、最低賃金についての取り決めは必要であり、労働環境の問題は、ほかにも数多くあるそうです。
最初の1年間で半分の人が辞める
ドゥニャ・クネゼヴィッチさん(27歳)は、モデルとして8年のキャリアをもち、エクイティのモデル委員会の副委員長も務めています。
「新人の頃は、充分な生活費も稼げません。携帯電話代と家賃を支払い、食べ物を買えるぐらいで、あとは両親に援助してもらうこともあります。事務所も、ほんの少しなら助けてくれるかもしれません」と、ボスニア出身のクネゼヴィッチさんは語ります。「最初のうちは不安定で、自分はこの仕事に向いているのだろうかと考えます。たいていは、最初の1年でこの道を進むのか、それとも大学進学や学校卒業を目指すのかを選択することになりますね」。
駆けだしの頃は、副業をもつ人も多いとクネゼヴィッチさんは言います。ナイトクラブやバーの宣伝の仕事をしたり、ショップで働いたりします。とくにアバクロンビー&フィッチが人気です。働きながら勉強を続ける人も少なくありません。
「ほとんどのモデルの年収は、2万ポンドから7万ポンド程度でしょう。仕事さえ入ってくれば、報酬は悪くない職業です。1年の間に半分の人が辞めてしまいますが、がんばって働けば、割りの悪い仕事ではないですよ」とクネゼヴィッチさん。
シャネルのキャンペーンや、雑誌の表紙に起用されることを夢見ている人は、そういった仕事はごく一部のトップモデルのためのものだということに気づく必要があります。
「コマーシャルやハイファッションの仕事に就けた私はラッキーでした。大半のモデルは、ヘアモデルの仕事をたくさんこなしています。とくにロンドンでは、美容院のヘアモデルをつとめることが多いですね」とクネゼヴィッチさんは言います。
モデルの数や、平均収入を算出する専門機関は存在しませんが、本当に大金を稼いでいるのはごく少数であることは確かです。
「誰もが知っているようなモデルは、ごくわずかな割合を占めているにすぎません」と、モデル事務所のモデルズ・ワン社の取締役、カレン・ダイアモンドさんは言います。
「一般の人が知っているのは、ケイト・モスや、ナオミ・キャンベルや、シンディ・クロフォードや、ヤスミン・ル・ボンなどのごく一握りの人たちの名前だけです。でも現在トップモデルとして活躍しているのは、ナターシャ・ポーリーやカレン・エルソンたちなのです。この業界の人間でなければ、誰のことかわからないでしょう」。
難しい資金計画、経済的安定
生活の支えになるのは、大手小売店のウェブサイトや通販カタログの仕事だといいます。
「美しいハイファッションや、広告キャンペーンは、最高級の特別な仕事で、その次に位置するのが、雑誌の仕事です。報酬は非常に少ないですが、それでモデルとしてのポートフォリオ(売り込み用の写真集)を作って、大きな広告の仕事の足がかりにするのです」。
一部のエリート層に属していないモデルたちも、生活していかなければなりません。
「コマーシャルの仕事をたくさんこなすモデルの場合なら、しばらくのあいだは年間に3万ポンドから5万ポンドを稼げるでしょう。19歳や20歳ならたいしたものですが、その状態が長く続くわけではないですし、何よりもフリーランスだという問題があります。資金計画を立てることや、経済的な安定を実感することは、非常に難しいのです」。
モデルを目指す人は、この業界の構造を知っておく必要がある、とモデル事務所のネクスト社のスカウト兼取締役、サラ・レオンさんは言います。
「定期的にイギリス中の町をまわってスカウトするようにしています。まだまだ誤解されている点が多いですから。ファッション業界といわれる世界、つまりヴォーグやプラダ、グッチ、マークス&スペンサーなどの世界に入りたいのならば、ロンドンやニューヨーク、パリ、ミラノの、ある程度有力な事務所に所属する必要があります。事務所に入ろうと思うなら、率直に、『怪しげな事務所の噂も耳にするので、こちらのモデルの人と話をさせてもらえませんか』と言ってください。きちんとした事務所ならば、嫌がらないはずですから。これが絶対確実な確認方法です。地方にも評判のいい事務所はありますが、地方の事務所に所属すると、ごく小さな地方の仕事しかもらえません」。
