女性の投票行動が男性と異なる理由
時代によって変わる女性の投票傾向
子育てウェブサイトや、ファッション誌、昼間のテレビ番組。選挙が近づくと、政治家たちは女性票を獲得するためにこれらの媒体に登場します。しかし、女性に的を絞った選挙活動がなぜ必要なのでしょうか? はたしてそれは有効なのでしょうか? ロンドン大学キングス・カレッジで経営学を教えているアリソン・ウルフ教授は問いかけます。
先頃の総選挙で、イギリスの政治家たちは、子育てのためのソーシャル・ネットワーキング・サイト『マムズネット』にこぞって登場し、自分のお気に入りのビスケットについて語りました。また、『グラツィア』のようなファッション&ゴシップ誌の編集者たちにもすり寄っています。
そこには、女性に対する奇妙なほど時代遅れで軽蔑的な見方が表われています。今や労働人口の半分が女性であり、学力的にも女子のほうが男子よりもかなり勝っています。このようなアプローチに、ほんとうに意味があるのでしょうか。
実のところ、意味はあるようです。政治に関する限り、女性と男性には明らかな違いがあり、投票行動にも、ときには大きな差が出ることがあります。このようなジェンダー・ギャップは、イギリスだけに見られるものではありません。そればかりか、世界中のどこでも、選挙となるとジェンダー・ギャップが大きくなるのです。
なぜそうであるかについて、充分に検証された説明を見つけることは驚くほど困難です。しかし、明らかなのは、女性の投票傾向が時代によって大きくぶれるということです。かつてのイギリスでは、女性は男性に比べ、保守党に投票する傾向が強く見られました。これは、1950年代の女性が夫に従って投票していたためではありません。実際、夫婦の投票傾向はかなり異なっていました。
1980年代から1990年代には、多くの女性(特に若い女性)が左派支持に移行し、ジェンダー・ギャップは一気に縮まりました。2000年代初頭、35歳以下の女性層では、同年代の男性に比べ、自由民主党支持の傾向が強かったものの、全体としては、男性以上に労働党に投票する傾向がしばしば見られました。現在、ふたたび投票傾向は逆行する気配を見せています。
50年前と現代の暮らしの違い
イギリスの選挙や社会は、階級に支配されていて、男性も女性も、基本的には自らの階級の利益にもとづいて投票すると考えられがちですが、これは明らかな誤りです。
エセックス大学のポール・ホワイトリー教授はこう考えています。「階級政治は時とともに下火になり、重要性を大きく失いました。人々は、支持政党を自分の好みで選ぶようになっています。それに対し、1950年代には、満足な働きをしていないと感じていても、支持政党を変えないことが多かったのです」。
このような変化によって、政治家は女性の要望を把握する必要に迫られ、その結果としてマムズネットが注目されているのです。このサイトは40万人の会員を擁し、ライバルのネットマムズには75万人が参加しています。インターネットを活用することは、政治家自身や所属政党の考えを表明するよい機会となります。さらにそれによって女性ならではの関心事を浮き彫りにすることができれば、一挙両得というものです。
○女性にとって公共部門が重要である理由
・現在、公共部門の職員の3分の2を女性が占めている
・過去10年間において、女性が新たに得た職の90%が公共部門のもの
・教師や看護師、学校のサポートスタッフの大部分が女性
選挙に関する近年の研究によれば、人の投票行動を左右する大きな要因は、3つあるとされています。1つは政党に対する忠誠心や党派心です。男性であれ女性であれ、けっして支持政党を変えない人はいるものです。2つ目は、個人が抱いている重要な関心事で、3つ目は誰が党首であるかということです。
昔の女性は家族のことを気にかけ、それは現在の女性も同じです。その点に変わりはありませんが、生活は変化しました。50年前には、男女の差は今よりもずっと明白でした。結婚した女性は家庭を守り、男性が仕事に出ていました。しかし、今もなお大きな差は存在します。
ロンドン大学バークベック・カレッジのロージー・キャンベル博士は、投票行動の専門家です。博士は、女性の家庭生活と有償労働の両立の方法に変化が生じたことが、多くの女性の左傾化を説明する重要な要因であると考えています。「家事や育児の大半を負担するのは女性です。母親になると、女性のワークライフバランスには乱れが生じてしまうのです」と博士は言います。
ポイントは党首の人気度
「これはすべて、家庭生活に関係した問題なのではないかと私は思っています。つまり、『正直に言って、外に働きに出るのなら、国がもっと介入して、保育などの制度を提供してもらいたいわ』という声の表われなのです」。
他国のジェンダー・ギャップの実態も、この論を裏付けるものとなっています。アメリカの女性は、男性に比べると「大きな政府」に敵意を抱くことが著しく少なく、民主党に投票する傾向がはるかに強いとされています。スウェーデンでは、女性が特に福祉国家の維持に熱心で、その意図に沿って投票を行います。
もちろん、家族が大切でないと主張する政治家などいません。しかし、この点については政党間での競争の余地がかなりあり、家族や母親の味方であると積極的にアピールすることは、大いに意味があるのです。
男性にとっても女性にとっても、党首は投票先を決める要因となります。そして常にではないものの、女性が男性に比べて、ある特定の党首をはるかに熱烈に支持する場合があります。
「1994年には、労働党の支持者が劇的に増加しました」とホワイトリー教授は言います。「なぜでしょうか。それは、トニー・ブレアが新たな労働党の党首になったからです。当時、彼は非常に人気があり、特に女性に好まれていました」。
党首の人気は、人々に好かれ、信頼されるかどうか、また庶民の生活を理解してくれると思われるかどうかによって決まります。多くの有権者、そして多くの女性は、細かい政策には興味がありません。提示されている政策パッケージ全体を、より直観的に判断して投票するのです。
そして、概して女性は、男性とはかなり異なるシグナルに反応すると考えられます。そのため効果音楽も有効とされるのです。実際、投票日が近づいても投票先を決めていない女性の心をつかむには、『マムズネット』よりも『グラツィア』のほうが、さらに昼間のテレビ番組のほうがより効果的かもしれません。
・ロンドン大学キングス・カレッジ アリソン・ウルフ教授
