アメリカ式のローカルテレビ局は、英国で成功するか
英国にローカルテレビ局が誕生することになり、文化大臣がその詳細を公表しました。
はたして、英国のローカルテレビ局は、アメリカの成功に倣うことができるのでしょうか。
アメリカのローカル局はみな、独自のスタイルを持っています。
精力的でエネルギッシュであると同時に、ITVやBBCの地方ニュース番組に親しんできた英国人の目には度を超したようにも映りますが、視聴者の注目を引きつけて放さないことこそが、アメリカのローカル局のスタイルです。
どんなにマイナーなニュースも、現地のレポーターや現場の上空を飛ぶヘリコプターがスタジオにライブ映像を届けることで、グレードアップできるようです。ニュースキャスターまでが、局の顔として徹底的に宣伝されていて、磨き抜かれ、英国のキャスターよりもはるかに輝いているような印象を受けます。つまるところすべては視聴率のためです。視聴率によって、放送局が広告枠にいくら請求できるかが決まります。
英国の民放局は、ニュース番組を客寄せの目玉商品と考えています。つまり、主要な収益源というよりもむしろ、放送局の威信を高める、あるいは放送免許にある公共サービスの権限を遂行するためのものなのです。しかし、アメリカでは、数千というネットワークの地方支局にとって、ニュース番組は商業的に不可欠な存在です。
ローカルテレビ局がアメリカのアラバマ州のバーミングハムで成功しても、イギリスのウェスト・ミッドランド州バーミンガムではうまくいかないだろうという理由は何かと、ジェレミー・ハント文化大臣は問いかけます。
「私たちが、期待されている通りに報道部門でするべきことをしなければ、そして伝えなければならないニュースを報道し地域社会に関わりを持たなければ、視聴率は下がり、収益はあがらず、職を失う人が出てくるでしょう」と述べるのは、 アメリカのアラバマ州バーミングハム「WBMA ABC 33/40」のニュースディレクター、ギャリー・ケリー氏です。
「WBMA ABC 33/40」 は、アラバマ州バーミングハムと近郊の郡に住むおよそ100万の人々に向け、生放送でニュース、スポーツそして天気予報を毎日7時間放送している、地域に四つあるネットワーク局の一つです。他に非営利放送局のPBSや若者向けの娯楽チャンネルがあります。地域の市場は乱戦模様で、ニュースやスクープを巡って激しい競争が繰り広げられています。
発生したばかりの火災や交通事故の現場に一番に駆けつけようと、レポーターはサテライトトラックで警察無線を傍受し、高速道路を走ります。けれども、救急車の追っかけ行為についての悪評が高まった1970年代以降、業界は行いを改めたと彼らは主張します。
「当時、アメリカのテレビ局の多くは、『血が流れれば、トップニュースになる』と言っていました」
そう語るのは、ベテランのニュースキャスター兼レポーター、パム・ハフ氏です。
「当時のテレビ局のほとんどは、地域社会で受け入れられたいと本当に願うなら、人々が持っていない何かを与えなければならないという見解を、はるかに超えてしまっていました」
「世の中の殺人事件をまた1件、火事をまたさらに1件放送することを、誰が気にするというのでしょうか。もっと深く事件を掘り下げなければなりません。例えば、市内の特定の地域で5件の殺人事件が発生したとします。報道すべきは、事件は『なぜ』起きたかということなのです」
私たちが訪問した日、午前4:30に始まるABC 33/40の早朝のニュース番組『グッドモーニング・アラバマ』では、スクールバスと鹿の衝突事故と、タンカーのガソリンが川に漏れ出した事故が大きなニュースでした。また、来る高校フットボール選手権の話題で盛り上がっていました。
司会を務めるマギー・ポトー氏とイェヌ・ウォダジョ氏は、コマーシャル中にツイッターやフェイスブックで視聴者とチャットし、地元のスポーツチームや天気についての気さくな会話でエネルギーを維持していました。
現在、ウェスト・ミッドランド州バーミンガムの視聴者は、地元のニュースについてアメリカの視聴者と同じような選択ができるわけではありません。英国の他の地域に住む人々と同様に、彼らは主要都市のいくつかを網羅するITVやBBCのニュース番組を見ます。主要な都市はそれぞれ地理的には近いものの、文化的な共通点はほとんどありません。
実際にイギリスではかつてローカルの民放テレビ局を立ち上げる試みがなされましたが、視聴者の関心が得られずに、ほとんどが失敗しています。
今年バーミンガム地域にテレビ局の設立を計画しているシティTV放送(City TV Broadcasting)のディレクター、デボラ・デービス氏は、今回は違う結果になるだろうと言います。技術の変革によってシティTVのようなテレビ局はより質の高い番組を制作できるようになり、昔の民放放送のように「素人っぽい」印象を持たれることはないだろうというのがその理由です。
「『ダウントン・アビー』や『Xファクター』のような番組を作れるようになるわけではありませんが、質の良いローカル番組を制作します」とデービス氏は述べます。
かつて故国のカナダで3人の大臣の側近を務め、またバーミンガム市議会ではPR責任者だったデービス氏は、バーミンガムがローカルのテレビネットワークが制作設備や内容を共有できるハブになることを望んでいます。
一部の専門家は、英国に地方の視聴率を調査するシステムがないので、広告を売ることは難しいだろうと指摘していますが、デービス氏は「視聴者の数を測る方法は他にもあります」と言い、その点については案じていません。
ABC 33/40で放送されているような「超ローカルニュース」が、シティTV放送の重要な部分になるでしょう。しかし、この局はアメリカのローカル局のスタイルを真似ようとするのではなく、音楽、アート、そしてライフスタイルを極めて重視した番組制作を行うトロントのシティTVをアプローチのモデルにしようと考えています。
一方で、ニュースにもっと積極的に焦点を当てることにしたローカルテレビ局もあります。
昨年夏、英国各地で暴動が起きた際、バーミンガムに拠点を置くシーク教徒の小さな衛星テレビ局、サンガットTVは、警察官と共に略奪者を追いかけ、BBCやスカイなどといった大規模キー局よりも速く重要な新しい動きを速報として伝えるという、ゲリラスタイルの報道で有名になりました。
アメリカよりも小さく、メディア文化の中央集中がより激しい英国は、アメリカと同じパターンでローカルテレビ局を構築することができませんでした。
ABC 33/40の午前のトーク番組『トーク・オブ・アラバマ』の司会者の1人、ニコル・オールズハウス氏は、多くのアメリカ人は他の州のニュースにほとんど関心がないと言います。
「ここの人々は、マイアミ、フォートローダーデール、あるいはどこであろうと、他の場所で何が起きているかについて知りたいとは思っていません。彼らが知りたいのは、ここで何が起きているか、近くに住む人々が何をしているかなのです」
ABC 33/40 はまた、32名が死亡し、数千人が家を失った4月のトルネードなどの緊急事態の際、視聴者にとってのライフラインになることに誇りを持っています。ABC 33/40 にはライブ・ビデオ・ストリーミング装置を搭載した高性能の小型トラック、「ストーム・チェイサー」があります。英国の多くの場所では、このような装備が必要とは思えません。
けれども、アラバマ州バーミングハムとウェスト・ミッドランド州バーミンガムのローカルテレビ局の最大の違いはおそらく、ゴールデンタイムの娯楽番組があるかないかでしょう。
すべての地元のライバル局と同じように、ABC 33/40 は、『ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ』や『ホイール・オブ・フォーチュン』といった、提携ネットワークが制作した大型予算の番組を放送しています。
英国政府は、ローカルテレビ局では、放送スケジュールに全国放送の人気番組を組み込まないことを決めました。ローカルテレビ局が事実上新しい全国局になるのではと懸念したからです。
問題は山積していますが、アメリカの業界専門家は、英国がアメリカのローカルテレビ局と同じように成功すると言います。数年間は不安定でも、その後黒字に転換しはじめるだろうと考えています。
「これまで60年の間、ローカルテレビ局は死んだと書かれてきましたが、すべて間違いでした」と述べるのは、ワシントンDCにある全米放送事業者協会のデニス・ウォートン氏です。
「ローカルテレビ局は時間をかければ成長できますが、そのためには魅力的な内容に加え、地元とのつながりや有能な事業経営スタッフが必要です。誕生パーティを録画するスマートフォンのカメラを使うような、よく考えもせずにできることではないのです」
